旗本と町方が争って居る間は良いのですが徳川の御代も段々と納まって参りますと頭株の者は別として各屋敷方の仲間小者、町奴の下ッ端の連中が町方を荒らし廻り、喰ひ物屋へ行けば無銭飲食をした上、他の客にたかったり、商家へ行って商品をかたる、大店へ行くとサシ等*の押売りをして断れば嫌がらせをしたり今日で言ふ御礼参りをする。

 

只今と違って警察の力の無い時で町方の役人が有っても武家方の者や、大名方の息の掛かって居る町奴の連中には手が出せなかったのでせう。

従がって此様な時の用心棒に町抱へ、店抱への鳶の者に 平常(ふだん)から目を掛け、何か事の有った時の駆け付け、外出歩き、年始回礼から旅先の御供まで致しますので火事以外にも町火消の勢力と言ふものは盛んで祭りの警護や催し物が有る時には如何しても頭の御厄介になると言ふんで巾の利く勢(きほ)いの鳶が出入りするのを見栄になさり、世間を広く顔の利く様にと後援をして下すったもんです。

*サシとは穴銭を通すわら