古川三右衛門は明治38年に江戸町火消“に組”の頭の家に生まれました。

 

私達姉妹の伯母は昭和35年に古川の養女となりました。

町火消しというと、背中一面に彫り物を入れて威勢のいい啖呵を切るような伝法な男達を想像するかもしれません。

しかし、古川のおじいさんは親からもらった体に傷は付けられないと彫り物も入れず、優しく穏やかで品の良い人でした。


いつもこざっぱりとしていて折り目正しい姿に本当の“粋”を感じたものです。

おじいさんが亡くなった時、遺品の中に何冊かの手記がありました。

そこに綴られていたのは、柳橋の売れっ妓だったおばあさんとの恋物語でした。(「随想」の“ご縁日”をご覧下さい)
昭和の初期に繰り広げられた映画のようにロマンチックなお話に私達は夢中になりました。

 

おじいさんの手記はまた、消えゆく“江戸”への強い郷愁に貫かれています。
大きく変わりつつあった時代の中で江戸情緒を追い求め、町火消の誇りを保ち続けた生き方が透けて見えます。

江戸の残り香が立ち上ってくるようなこの手記を、私達だけで読んでいるのはもったいないと思い、

このホームページで公開することにしました。

しばしのタイムスリップをお楽しみいただければ嬉しく存じます。

 

旧仮名遣いの手書き文字をワープロに入力するにあたっては、間違いも多々あるかと思います。
ご指導やご意見をいただければ幸いです。

 

 

2005年秋